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インドネシアはロシア寄り?


ウクライナ問題をめぐって、インドネシアは「ロシア寄り」との話が日本にも流れてくる。米国やNATO諸国と足並みを揃え、ロシアに厳しい姿勢をとる日本政府には由々しき事態である。で、旧知のインドネシア人長老ジャーナリストに連絡を取ってみた。「それは社会の雰囲気。政府は具体的に何も決めていない」との返事が即座に返ってきた。

 

「ウクライナはユダヤの国だ。第一、ゼレンスキー大統領がそうだ。つまりイスラエル支持者と考えているから、イスラム教徒は反感を持っている」。そう、人口の約9割がイスラム教徒であるインドネシア。どんなにロシア軍の想像を絶するウクライナでの蛮行が伝わっても、社会にウクライナへの支持、共感という雰囲気は出てこないらしい。

 

YoutubeBBC Indonesiaチャンネルもこう伝える。ウクライナ問題に関するニュース動画へのコメント欄は日本のそれとは雰囲気が異なる。「インドネシアは中立を保つべきである」であるとか「西側諸国はパレスチナ問題はどうなのか?」というコメントが、ロシアを非難するコメントよりも目立つ。

Shutterstock (2019年)より

 

 

 

政府はどうか。43日の国連緊急特別会合でのロシアを厳しく批判する決議案には賛成したものの、7日の国連人権理事会でのロシアを除名する決議案には反対票を投じる対応を見せた。米国を中心とする西側諸国と一線を画したと言える。

 

インドネシアの外交姿勢は1948年の独立後、一貫して特定の陣営に組しない中立を建前としてきた。インドネシア語で言えば「ベバス・ダン・アクティフ(自由闊達)」を貫いてきた。米ソ両陣営に属さない非同盟諸国運動の世界的リーダーの一人だったスカルノ初代大統領の哲学を現在まで引き継いでいる。

 

もっとも、実態面ではインドネシアの過去半世紀の外交姿勢はそうではなかった。1965年9月に起きたインドネシア共産党と反共の国軍、イスラム勢力の衝突をきっかけに誕生したスハルト政権は、親西側反共路線を推進。日本は政府も企業もそれを好感し、同国向け投資額は東南アジ諸国連合(ASEAN)でもダントツの規模だった時代がある方、看板をそのまま受け取れないが、「ベバス・ダン・アクティフ」は高く掲げたままだった。

 

では、今回のウクライナ問題についてのインドネシアの本音はどうか。東南アジアでの覇権確立を目指し、日増しに同国への接近を強める中国への配慮があろう。一方で、南シナ海でプレゼンス拡大に神経を尖らす米国のインドネシアへの働きかけも激しさを増している。ウクライナ問題は米中対決のはざまで対応に苦慮している様子が受け取れる。

 

この10月、インドネシア・バリで開催予定のG20サミット。初めて議長国を務める同国のかじ取りが注目される。すでにジャカルタ駐在大使が参加を表明したロシアに対し、米国はじめ西側加盟国の強い反発が予想される。インドネシアは態度を明らかにしてない。議長国インドネシアが全体をどう取り仕切るか。「ベバス・ダン・アクティフ」が従来のような綺麗ごとではすまされない可能性が強い。遠い欧州の出来事だったはずのウクライナ問題はインドネシアのジョコウィ政権にとって、米中対決に向けての大きな踏み絵になってきた。

 

小牧利寿

 

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